最多人員を率いる
30代の生産トップ
生産本部ディレクター
# 30代
# 経営層
# 海外駐在
自然体──というのが偽らざる第一印象。一見すると、社内最多のスタッフを擁する、製造部門を統括する《BOSS=最高責任者》とは思えない、ソフトな印象を醸し出している。
「製造現場では日々、大小にかかわらず、問題や改善課題が発生します。ときには、現場がネガティブな空気に包まれることもあります。そういったケースでは、根本的な原因を推測し、仮説をたてて検証し、解決策を検討します」
メンバー個々人との、日常的な細かいコミュニケーションは、各グループのマネジャーに一任している。重要なのは、部門全体の方向性を間違えないこと──スタッフ個々がやるべきことを明確にして、各人が前向きに仕事に取り組む姿勢を保てるように、環境を整備し、進むべき道筋を示すこと──だ。
リーダーとしての原点は、入社3年目から3年半赴任していた、KIMICAの南米・チリ事業所「Alginatos Chile S.A.(アルヒナートス・チレ。略称:Alchi/アルチ」にある。
「Alchiでは、日本人スタッフは、チリ人スタッフに指示しながら生産を管理する立場に立ちます。言葉の障壁や国民性の違いもありますが、一つひとつの作業の意味、そこから生み出される成果がどれだけ重要なのかを理解してもらい、気持ちよく仕事をしてもらうためのコミュニケーションの大切さを身にしみて経験しました。それが現在のベースになっている気がします」
もうひとつ、Alchiでは、技術者として得難い成果も挙げている。メーカーの宿命ともいえる不良品の発生率を、生産管理強化によって、単月記録ではあったが「0%」にすることに成功したのだ。
「不良品を《0》にできるなんて想像もできなかったので、夢のような出来事でした。滅多にあることではないので、自分にとっての勲章だと思っています」
平日に食べたいものリスト(!)を作成し、週末に料理します。趣味というか、食べることが好きなんです。一緒にお酒を楽しむことも忘れません(笑)。大学に入って一人暮らしを始めて以来続いている習慣です。学生時代に弁当屋でアルバイトしていて、あれこれ調理することに目覚めました。和洋中なんでも作りますが、最近はつまみになる和食系が多いですね。
料理と並ぶ楽しみは釣りです。房総はいたるところに釣場があるので、チャンスを見つけては出かけています。下手なのですが、一応魚をさばくこともできます。料理も魚さばきも同じ包丁を使います。それも特別なものではなくて、一人暮らしを始めたときに実家から持ってきた、20年近く使っているありふれた包丁です。砥石で研ぐなんてこともしたこともありません。よくあるシャープナーでシャッと研ぐだけです。弘法筆を選ばず……というのは冗談ですが、よくもっていると、我ながら感心します。
釣りといえば、製造オペレーターの方たちにお世話になることがあります。KIMICAには、元々、海苔養殖や漁業に従事していた方が複数在籍しています。中には、いまでも小船を所有している方がいて、一緒に海に出て釣りを指南してもらっています。おかげで、タイやスズキ、タチウオなどの釣果に大満足! 仕事を離れたとりとめない会話も楽しいです。
彼を代表として、同じ30代前半で経営層に抜擢される人材が多いこともKIMICAの大いなる特徴だ。そして、抜擢人事については、性別による差異はまったく存在しない。先輩世代が勇退する時期とたまたま合致したという側面もあるかもしれないが、ことはそれだけではなさそうだ。
「Alchi赴任経験者が増えて、グローバルな視点で事業の将来像を描き出せる人材が育ってきたことが大きいのかもしれません。また、博士号取得者や高度な研究機関への出向経験者が、普通に、身近で仕事しているという事実が、抜擢を後押ししているのではないでしょうか」
現場のリアルな声、スタッフたちが積み上げる日常の成果はもちろん、部門全体、ひいては会社全体の未来を確実にするために、経営陣に対して報告し、新規案件をプレゼンテーションすることが、課せられた責務だ。推測・仮説・検証を経て、自分で納得した課題・案件を、経営会議に上げる。
「毎回真摯に討議していただき感謝しています。これまでの背景・現状の把握、予測される成果とリスクの評価、そして細部まで数字を積み上げた予算について納得していただくために、常に緊張感を持って臨んでいます」
日々アルギン酸の製造に励むスタッフの代表者として、また事業全体の根幹を指揮する責任者としての眼差しは、自然体で穏やかだが、不屈の意志を感じさせる。